notes

おたより.html

東京都写真美術館のサイトがリニューアルされた。館の改装に伴うCIの刷新に連動したもののようだけど、これがすばらしかった。CIそのもののことは話が散らかるので今回はあまり触れないけど、すばらしいの一言に尽きる素敵な仕事だ。


リッチで簡素なウェブ

特徴的なのが、トーン&マナーのさっぱりした感じをより強調するような、まるで何もないかのようなウェブデザイン。よくよく見ると、ウェブフォントを独自エンジンで丁寧に使っていたり、高解像度対応や、マルチデバイス、もろもろ必要最低限の仕様をひととおりしっかり抑えている感じ。やろうと思えば、ビジュアルデザイン的にも、開発的にも、“もっとできた”はずだ。
こことかこのあたりのコミュニティも、似たようなたたずまいをまとっている。

でも、そうしなかった。そのほんとのところは関係者にしかわからないけれど、このところ自分が考えていたこととすこしリンクしたのでほんのちょっとだけ書いてみようと思う。


ひろがるweb、「おたより」化するウェブサイト

webの技術発展に伴って、今後webはアプリ化していくし、インターフェイスはNUIやOUI化する。ウェブの技術は拡張してWWWからさらに広がる。じゃあ今でいうウェブサイトってなんになるのって言ったら、「おたより」になると思うのです。まるで、一時期のテキストサイトのような。

文字デザインと媒体特性

といっても、ここでいうテキストサイトというのは「オモコロ」や「はてな匿名ダイアリー」に代表されるオモシロテクスト文化圏のことではなく、どちらかというと「ほぼ日」のような、シングルカラムでリニアな構成、ビジュアルは装飾というより図版としてのみ用いられ、文字原稿でものごとを伝えるタイプのサイトづくりのことを差しているわけだけど。

ウェブデザインはグラフィックデザインの一部ではあるけれども、媒体特性としては、むしろプロダクトデザインに近く、もっと言うと、道具、建築に近い。つまり「機能してなんぼ」のメディアだと思う。ここでいう機能性というのは、アウトプットの純度のことではなく、媒体を介した出し手と受け手の相互作用=インタラクティブ性のようなもののことだと思っている。

どうやってデザインしていくか

だから、webは出版のような、伝えたいことをベースにした「想いドリブン」ではなかなかうまくいかず、リサーチを演繹的にクリエイティブに結びつけて、誰がどこで必要としているか、つまり「ユーザードリブン」を起点につくりあげることが基本的な考え方だと思う。
※余談だけど、バウハウスとはよく言ったもので、当時は建築こそがすべてのデザインを包含するものだとしたわけだけど、いまはもしかしたらweb、もしくはその拡張されたものがそれにあたるのかもしれない。

コンテンツを原稿と呼んでみる

ここで重要になってくるのが、やはりまわりまわって「コンテンツ」なんだよなあ、というのが僕の感想になってくる。エディトリアルデザインの基本的な考え方に、「文字」と「図版」をどう構成するか、という視点があるのだけど、そこに立ち返りたいなとこの頃思う。

デバイスは多様化する一方だし、AMPのような記事配信の仕組みや、そもそもインターフェイス自体も多様化(知人の開発者は、書籍データを音声で読ませながら作業をするらしい)するなかで、最終的に残るのはコンテンツそのもの、つまり「文字と図版=原稿」なわけで、限られたリソースはそこに投下するべきじゃない? というのが僕の考え。ここまで書いておいて、結局いわゆるコンテンツファーストのことなんだけど、そういうもっともらしいフレームワークというよりは、いまはもっと単純で原始的なものを志向したい。

原稿の原体験って「おたより」だよね説

学校で配られる「プリント」、あれって実は、いちばんはじめに「コンテンツ」を肌感持って感じた媒体じゃなかろうか。先生がいて、プリントをもらう自分たちがいて、さらにそれを手渡す保護者がいる。場合によっては、お休みした友達に届けにいったりしたこともあるかもしれない。

ウェブ技術を使ったメディアがどんどん拡張していくなかで、いまでいうウェブサイト、つまり特定の領域にデータを置いておいて、みんなに見に来てもらうというありようは、「おたより」なんだなあということを、冒頭の東京都写真美術館のサイトをみて感じた、というお話(長い)。

文字と図版があれば、あとは最低限でいい

だからこそ、あの「おたより」の感じを思い出してみたい。結局は、テキストと図版をしっかり丁寧に見せてあげれば、だいたいの場合は事足りるのでは? 技術やノウハウは、そういう地味なところに修練されて、そして枯れていくのでは? fixed layout という意味ではない、広義の文字伝達デザインというか、タイポグラフィ2.0的なもの。そういうものをもう少し突き詰めてみたい。


じゃあ写真やイラスト、ビジュアライゼーションの機運が高まっていることはどう接続するのか。その辺が気になってくる。実際どうなるかはわからないんだけど、そんなことを思いながら日々pixelを整えたいと思います。

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