notes
ウォーターフォールなデザインも悪くない
自分の所属するデザイン会社ではサービスデザインの専門部署があり、僕もそちらのプロジェクトに参画することがある。デザイン思考、UXデザインといえば、リーンでアジャイル的な素早いスプリントを回すことで、短期間で仮設の検証やコンセプトの具体化を行うことも多い。個人の思い込みに頼らず、外部化されたフレームワークを活用してビジネス文法にのっとってデザインをすすめる、ということだ。
今回は、それとはちょっと異なる話。
アジャイルとは正反対の、古典的なウォーターフォールのデザインプロセスについて、僕が日頃試していることを書いてみようと思う。
デザインをかためていくプロセスについて
デザインはプロセスが大事、というのはよく言われることだけれど、これは但し書き付きの言葉だと思っている。「ビジネスにおける」デザインはプロセスが大事なのだ。
クライアントがいて、エンドユーザーがいて、間に僕たちデザイナーが立っている。僕はこれを「3者の構図」と呼んでいるのだけど、これをビジネス、つまり受託として進めていくには、受発注の関係や、それぞれの専門知識がどちら側にあるかなどの点から、さまざまな溝をひとつひとつ埋めていく必要があると思っている。つまるところ、演繹的なプロセスが大事なのだ。結果だけでは成立しないのがビジネスにおけるデザインだ。
なぜ演繹的にデザインをすすめていく必要があるか
もともとは瞬発力派だった
とはいえ、プロセスプロセスと偉そうに言っている僕も、もともとは「結果がすべて」派閥だった。というか内心いまでもそうだ。
エディトリアルの現場では、「もらい」と呼ばれる支給原稿と、ありもののフォントで、“冷蔵庫の中のもので仕上げる”といわれるようなザクザクと短時間でレイアウトをつくり、60%や70%の完成度で編集者に送り、コンセンサスをとる進め方が往々にして多い。
ページの作りにもよるけれど、中一日どころか、即日入稿という場合もある。
ビジネスとしてのデザインは、語りと握りで半分
そんな出版の現場は若干異質だけれど、一般的なビジネスシーンではそういった「阿吽の呼吸」的なコミュニケーションではうまくコンセンサスがとれないし、エビデンスも残らない。お互いが共通の分野のプロというわけではないし、「隣に座って一緒にものづくりをする」というよりは、「対面でキャッチボールをしながら詰めていく」ことから始まることが多い。
※これを「隣の関係」に持っていくことが、よりよいデザインの第一歩なのだけど、それはまた別の話。
デザインというと、とかく制作部分が語られがちだけれど、実はそれはプロセスの半分くらいでしかないのではないかなというのが、僕の所感。作ろうとしているもの、作ったものについて、適切に語り、批評し、合意形成をしていく。そうして握った事項を積み上げることではじめて、物事が進んだといえることもあるのだ。
疲れないデザインはサスティナブルである
あたりまえだけれど、僕たちはプロのデザイナーである前に、ひとりひとりの人間だ。持続可能な仕事を設計する必要がある。これはフリーランスでもサラリーマンでも同様だと思う。
大きな決定事項をひっくり返さない。なんども必然性のない同じ作業を繰り返さない、建設的なプロセスはモチベーションを育む。仕事として続けていける。
実際どんなふうにやっているか
僕が実際に案件で行っているプロセスの一例を挙げてみようと思う。あくまで一例で、状況に応じて抜き差ししたり、カスタマイズして運用している。都度、プロジェクト全体に共有し、認識を深めていく。
1. イメージを抽出
世の中にあるフレームワークを活用するなどして、言葉でイメージを抽出する。条件が許せば顧客と一緒にワークをやるとなおよい。
例:言語イメージスケールなどの使用
2. 分類して構造化[飛躍その1]
無理矢理にでも図式化してまとめることで、抽出されたイメージにおける、デザインの関連性や方向性のきっかけを見出す。前工程のマッピングがヒントとなり、ゼロから行うより発想・発散がしやすく、エビデンスが残しやすい。
3. モデル化して捉えやすく
抽象化・擬人化するなどして、直感的に扱いやすくする。
4. プリンシプルとして言葉で定着[飛躍その2]
簡潔に一言で言い切る。ここがいちばんのポエムどころ。そうして拠り所をつくることで、方向性をより明確にし、ブレそうになった時に立ち返ることができるポイントをつくる。繰り返しになるけど、ここは簡潔に言い切ることがポイントだと思っている。
5. ムードボードをつくり「なんとなく」をシェア[飛躍その3]
いきなり画面にせず、これまでのプロセスからざっくりとグラフィック(ムードボード)をつくり、イメージの方向性をつかむ。
6. スタイルタイルで具体的にブレイクダウン
だんだん具体的なパーツレベル(スタイルタイル)に落とし、ウェブページに近づけていく。これができてくる段階から、スタッフのデザイナーと分業が可能になってくる。
7. デザインスタディで総合的なジャッジを[飛躍その4]
やっぱりページの状態のほうが直感的にイメージしやすいことは多いし、情報量が増えるので気付きも多い。設計の進捗に関わらず、その時点での要素でカンプではなく「スタディ」としてページを起こしてみる。敢えてここで工夫を入れ込む場合もある(設計サイドとの連携は丁寧に)。Atomic Design的なモジュールベースのデザイン構築をしていたとしても、ここでページとしての体験に不足や不整合がないか確認する。
8. デザイン・ファウンデーションで展開の素地固め
デザインのルールがないと量産やコーディングができないしあとあと困ることになる。アセットや細かいパーツのバリエーションなどをきちんと定義しておく。僕たちはこれをデザイン・ファウンデーションと呼んでいる。PSDやSketchで作ることもあれば、CSSで定義することも。エンジニアさんにおまかせ厳禁。デザイナーがきちんとディテールを司ることが大切だと感じる。
デザインは飛躍
紹介したプロセス例のなかに、[飛躍]と書いてあった項目があったと思う。
リーンなものだけでなく、演繹的なプロセスのなかにも、デザインの飛躍がたくさん含まれている。飛躍こそデザインのダイナミズムであり、課題解決のパワー。自分自身やスタッフの飛躍をいかに引き出しやすくしていくか、そういった仕事のしかたを組み上げられるかで、アウトプットの質、ひいては顧客満足度にダイレクトに繋がるんじゃないかと僕は考えている。
見せた瞬間に勝負は決まる
何らかのアウトプット、[飛躍]をはさむ段階において、クライアントにモノを見せた時の表情ですべてが決まると言っていいと僕は思っている。言葉で捕捉・補強していくことはできるし必要だけど、ファーストインプレッションが良いことに越したことはない。「いいですね!」この一言が聞ければプロジェクトの成功はかなり近づく。
プロセスを型化する
型をつくってプロセスをフレームワーク的に展開することで、さまざまな事例の中での相対的な比較と、その場合に限っての絶対的な指摘がうまく抽出できる。と思っている。フレームワーク化は思考停止を招くので、「オレオレフレームワーク」を推奨する。自分が作ったフレームワークならメンテも気軽だし、どんどん柔軟に進化させていける。
…と言いつつ、結果がすべてだろーと思っている僕も、実はいます。
大人になるってむつかしいですね。
でも大人も悪くない。いろんな案件をやる楽しみが増えました。
制作のダイナミックレンジが広がると、個々の案件へのまなざしが深くなるような気がします。
追記:
競合との相対化などはどうしてるの? というコメントをいただきました。必要に応じてやっています。ここでは、ある程度のボリュームの案件における「デザインパート」をイメージして書いていました。なので、この前段の設計パートでそれは行われているという認識です。
そういったものも、必要に応じて任意のプロセスとして組み込んでいくことで、それぞれの案件にあったデザインの握りができると思います。