notes

ADとDの間の共通言語(1)

デザイナー同士の言語化

デザインについてスタッフとやりとりするとき、いろいろと気にしているポイントがあるのだけど、それをうまく言語化できないと、相手に伝わらず歯がゆい思いをする。デザインというものはうつろいやすく、本質があるようで、掴みづらい。ADとデザイナーとの間で共通言語を増やしていくことで、よりよい関係…翻って、よりよいアウトプットに繋げることができると信じている。なので、共通言語としてよく持ち出すものについて、ひとつ書いてみたいと思った。つまり、このエントリはデザイナー同士の言語化の話ということになる。


僕が普段スタッフに伝えていることを例に、ADが付いているわけではないけど、迷ってしまった、自分でなんとかしなければならない、というデザイナーのケースを想定して書いてみたい。

「デフォルトとイレギュラー」

いきなり書いてしまった。特に使う頻度の高いのはこれだなというのがあって、それがこれだ。

デザインの因数分解

具体化されたデザインのアウトプットを要素分解したとき、いろいろな要素・属性があると思う。色、シェイプ、構図、タイポグラフィ、イラストや写真のディレクション、こまかな仕上げ、そして基礎設計(グリッドワークとか)など。
それらはふつう、(見ために関わらず)複合的にからみあって目的を達成しようと構造化されているため、非デザイナーにはなかなか因数分解が難しい。ここではそこには深く触れないけれども、少なくともデザイナーであれば、勢いで作ったものであれ、悩んだ末のものであれ、作ったものを再解釈し、自分のアウトプットを要素のかたまりとして捉えることが大切だと思う。焦ったときほど、この「再解釈と因数分解」が大事だ。ADがさもわかったようなふりしていろいろ言うのは、経験ももちろんあるが、これが作業者自身ではないためにやりやすいだけだと考えている(元も子もない!)。

目的とアプローチ

制作物の再解釈ができたら、さらに客観視を高める。
なんにせよ、かならずそのデザイン/仕事の目的があると思う。なんのための制作だったのか、それを簡潔に、箇条書きにしてみる。自分のための作業なので、きわめてシンプルでいい。それがその仕事のゴールであり、目的だ。もっともらしくいうと、解決するべき「課題」になる。このとき、案件の最初に把握していたつもりだった言葉とズレがあってもいい。そのズレをよく考えた時、手を動かす中で自分がブレていたのか、それとも理解・思考が深まったのか、どちらかなので、それがわかるためだ。どちらにせよ、箇条書きはシンプルだけど有効な手法だと思う。
そして、目的がはっきりしたら、自分がどんな切り口でその目的=課題に対してアプローチしようとしていたのかを考えてみる。これも単純でいい。自分のための言葉だからだ。ここで出てくる言葉が、「コンセプト」のなれの果てだ。洗練された本当の姿なのか、ブレた結果なのかは、自ずと見えてくると思う。自分にとってハラオチ感があればよいし、あとは他者への言い方だけだ。それがなければ、まだ自分のなかで解釈できていないということになる。

基準と、それに対する関係

ここまでくれば、ゴールが見えてくる。制作物の因数分解と、制作の目的…課題の把握、そしてそれに対するアプローチ…つまりコンセプトが再解釈できた。ここでようやく、「デフォルトとイレギュラー」が登場する。デフォルトというのは、文字通り基準になるもので、“揃っている”状態を差す。イレギュラーとは、それの反対、“ハズシている”状態のことだ。この“デフォルトとイレギュラーの扱い”を自覚的にコントロールできれば、デザインはまとまる

例えば、カチッとした、重要なビジネスの局面に必要なドキュメントをデザインするとしたら、デフォルトにできるだけ寄せていくと、端正なイメージになると思う。フォントのデフォルト、色のデフォルト、構図(ものの配置)のデフォルト…これらをできるだけブラさずにまとめればよい。

一方、アヴァンギャルドなサブカルチャーを扱うZINEをつくるとしたらどうだろうか。デフォルトを見極めつつ、どんどんハズしていく(適当に、ではなく、デフォルトという基準があってこそ)。要素の大小、色相や彩度・明度の差、構図の安定性…。そうすれば雑味があり、隙のあるたたずまいが実現できると思う。

女性向けの、アンニュイなショップカードを作るとしたらどうだろうか。デフォルトとイレギュラーのレンジをできるだけあいまいに、微妙にしていくと、そういった雰囲気が出ると思う。ちょっとした要素をこまかくいれてあげるとか、極端なサイズ比をつけずに、微妙なバランスを狙うとか、構図にちょっとだけずれをいれてあげるとか、そういった塩梅。

…これらはあくまで例で、デザインは正解があるわけではないので、わかりやすい例え話でしかないけれど、参考になればうれしい。


今回は、僕がいつもスタッフの子に伝えていることのひとつを例に、デザインのフィードバックを個人のなかで完結してみるという前提で書いてみた。この「デフォルトとイレギュラー」は、制作をしていくなかでも有効だと思っている。デザインを進める中で、これは基準となる要素なのか、ハズしの要素なのか、といったことについて自覚的に作業をすすめていくと、あまり難しく考えなくても、比較的アタマをスッキリと保ったまま、プライオリティを付けつつ、制作ができるのではと思う。

…本音をいうと、僕自身は、かなり直感的にモノをつくってしまうほうだ。いったん自分の中で掴めれば、びっくりするほど短時間で仕上げてしまう。その半面、それを喜び勇んで同僚に見せにいったときにうまく説明できないことがままあった。そんな経験から、飛躍を経て抽象度の高いまま作ってしまったもの、を自分自身が再解釈し、人に言語化して伝えられるようにする、という経験から出てきた言葉が「デフォルトとイレギュラー」だ。

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